2025年9月5日金曜日

タチハラフィルスタンド45Ⅱ


  タチハラフィルスタンド45Ⅱ「Handy View 4521」との出会いは、2004年のことである。しかし、その前日譚を語るには、2003年まで遡らねばならない。まずは、その話から始めよう。

 大判写真を本格的に始めるにあたり、僕はごく短い間、タチハラフィルスタンド45(便宜上、Ⅰ型と呼ぼう)を使っていた。身近に大判カメラを使っている者などいなかったから、独学であらゆることを調べ、覚えるしかなかったのだ。いくらカタログにスペックが書かれていても、実際に使ってみるまでは、その使い勝手は実感できない。だから、まずは使ってみる必要があった。大阪のトダカメラ(今はもうない)で、7万円弱で手に入れた記憶がある。手のかかったハンドメイドのカメラが、こんなにも手頃な価格でいいものか、と当時の僕は素直に驚いた。

 実際に使ってみて初めて分かったことだが、Ⅰ型は後枠を前後にスライドさせることはできるものの、それはギアによるものではない。一方、Ⅱ型はギア駆動になっている。静物写真のように、近距離でピントを合わせる場合、前枠を動かすとレンズの位置が変わってしまい構図もずれてしまう。しかし、後枠で合わせれば、そうした心配がない。そんなごく基本的なことすら、僕は最初、分かっていなかった。そして、Ⅱ型が存在する理由を心底理解したのだ。風景しか撮らないのならⅠ型でも問題なかったが、僕は静物も撮影したかったので、Ⅱ型が必要となった。そうして、僕は翌年に買い替えることになった。

 大阪のヨドバシカメラで、木部の塗装や金具の色、蛇腹の材質まで細かく指定してⅡ型を注文した。こうして製造されたものは、僕だけの一台となるわけだ。それでも11万円くらいだったと思う。使われている木は、北海道の樹齢300年の朱里桜だという。手書きで「121」と記されたシリアルナンバーも、いかにもハンドメイドらしい風合いがあり、僕の愛着をより一層深いものにした。Ⅱ型が結局何台製造されたのかは分からない。だが、2013年にタチハラ写真機製作所が廃業してしまったことを考えると、それほど多くはないだろう。

 木製のカメラなんていうと、かなりレトロな印象を持たれがちだ。しかし、僕のタチハラⅡ型は、21世紀になってから販売が始まったモデルであり、「Handy View 4521」という愛称が付けられている。ちなみに、タチハラフィルスタンドの「フィルスタンド」は、「field stand」、つまり「原に立つ」という意味らしい。その響きが、なんとも心地よい。

 その後、僕は2013年にリンホフ・マスターテヒニカ2000を購入することになるのだが、操作性においてはタチハラの方が使いやすい。各部のロックは、単純にネジを締め付けるだけなので素早く動かせるし、前枠を一番前で固定できるため、広角レンズ使用時に、ベッドが写り込むこともない。この点、マスターテヒニカは手順が多くなりがちだ。

 ヨドバシカメラの販売員が、「タチハラはいいですよ。リンホフを持っている方でも、タチハラばかりで撮っている方もいます」と言っていたが、今になってその言葉の意味がよく分かる。

 ただ、僕の場合、今のところリンホフを持ち出すことの方が多い。それは、面倒な手順を踏んで撮影する方が、何か得るものがあるような気がするからである。これはカメラの構造的な問題なので、慣れで解決するものではない。タチハラは軽く、使いやすく、どこか手工芸品の趣さえ感じさせる。

 以前、僕は立原さんと電話で直接お話しさせていただいたことがある。この人が作ったカメラなんだという実感が湧くと、ますます愛着が深まるのだ。僕にとって、このカメラは単なる道具ではなく、特別な存在なのである。



0 件のコメント:

コメントを投稿