この日は、21時25分に北東の山の端から月が昇るはずだった。20時に目的の駐車場に到着したが、北東の空は、雲で覆われていた。軽く調理を済ませて、夕食をとっていると、その間に山の向こう側に雲は消え去り、多くの星が見えるようになった。
「ここではこんなに多くの星が見えるのか」と驚かされる。
この浜に月光の撮影で訪れるのは今回で三度目になるが、これでうまくいくとはまったく思っていない。
「何か撮れるまで、何回でも何年でもかけて来てやるさ」くらいの気持ちでいる。
なぜなら、撮影できるチャンスは年に何度もないのだから。適切な露光値や現像量も依然として未確定のままだ。
どの画角で撮影すればいいのか、月を見てみないと分からないので、ひとまずリンホフに210mmをセットして、北東方面をじっと眺める。対岸の木之本辺りの街の灯りの向こうの山の端が、ぼんやりと明るくなり始める。すると、月の一部が現れたかと思うと、みるみるうちに月全体が見え、山の端から離れていく。
そして同時に、湖面には月光の道が出現する。この日、風速は3メートルほどだろうか。ゆらゆらと揺れる湖面と、月の高度に応じて、道の形状は変化していく。
慌ててレンズを300mmに交換し、何枚か撮影した後、500mmに交換した。
21時30分から撮影を始めて、2時間ほど撮影に没頭していた。露出計は役に立たない。そこでデジタルカメラで試し撮りをし、その結果を参考に露光値を決める。さらにフィルム(ケントメアパン200)の相反則不軌特性を考慮すると露光時間は7分から40分ほどになる。そうして5枚ほどを撮り終えることができた。
露光中、浜辺から湖面に輝く月光の道を見ていると、タヌキが現れた。
「まさか、この月光の道を歩いて対岸まで行くつもりか!?」
と思ったのだが、そんなことができるはずもなく、僕の方を何度も見てから渚沿いを足早に走り去っていった。撮影中の構図の中には、タヌキに反射した月の光がフィルムに露光されているはずなのだが、ほかの光に紛れて痕跡は残らない。
琵琶湖畔で、月が出てから数時間、ずっと見ているなんて、かなりの暇人である。しかし、目まぐるしく変化する月光の道はおもしろく、実はこちらは大変忙しい。
月光の道が閉じたら、音楽を聴いたり読書をして夜を過ごそうと思ったが、疲れてすぐに横になってしまった。
僕が眠っている間も、月は湖面を照らしている。もしかしたら、僕が見ていない間に、先ほどのタヌキは、対岸に向かって月光の道を歩いているのかもしれない。
明日は5時に起きて、日の出前の湖面を撮ろう。







