写真用フィルムや印画紙には銀が使われている。他の金属は、コスト、光感度特性、毒性、保存性といった点で適さず、選ばれることはなかった。
白黒写真の場合、フィルムや印画紙に含まれる銀は、現像・定着処理を経て金属銀として像を形成する。感光しなかったハロゲン化銀は定着液に溶解し、取り除かれる。これがゼラチン・シルバープリントである。
カラー写真の場合も、フィルムや印画紙には銀が含まれているが、処理工程の途中で色素に置き換えられ、銀は取り除かれてリサイクルされる。これは発色現像方式による印画である。
銀は貴金属であり、化学的には比較的安定しているが、決して万全ではない。
銀の指輪やネックレスを着けたまま温泉に入ると真っ黒になる。銀の皿やスプーンは、使わなくても経年で黒ずんでくる。シルバーアクセサリーには、意図的に黒ずませる「いぶし加工」という技法もある。古い写真がセピア色に変色するのも、同じ現象だ。
これらはすべて、空気中に微量に含まれる硫化水素が、金属銀を硫化銀へと変えることで起こる。
銀分子の密度によって、黒く見えたり、茶色く見えたりする。銀は鉄のように酸化してボロボロになることはないが、最終的には硫化銀という安定形態へと移行する。自然界に存在する銀の多くは、硫化銀として産出する。
ここで、写真の話に戻る。
金属銀が露出したままのゼラチン・シルバープリントは、いずれ硫化していく運命にある。長期間プリントを保存しようとするなら、金属銀を何らかの形で保護する必要がある。
海外では、セレニウム調色液によって金属銀をセレン化する処理が一般的だと思われるが、重金属であるためか、日本国内では入手しづらい。
セレニウムトナーに代わる次善の策としては、フジのAGガードが挙げられるだろう。これは印画紙表面に保護膜を形成する処理で、銀を化学的に安定化させる方法とは異なるが、色調が変化しないため、僕も使うことがある。
そして、硫化調色である。
放置しておけば、印画紙上の金属銀はまだらに硫化していく。それならば、最初から一様に硫化させ、安定形態にしてしまえばよい。加えて、モノクロームの表現は白と黒だけではない。茶色を帯びたモノクロームを用いたい場面もある。
硫化調色の薬品には、硫化ソーダ、硫化カリウム、硫化カルシウムなどがあるが、硫肝(多硫化カリウム)による調色は、僕にとって最も好みの色調を得ることのできる方法だ。
しかし、写真のデジタル化によって銀塩写真のユーザーは減少し、供給される写真薬品の種類も限られてきた。現在では、市販の硫肝を入手することは、かなり困難になっている。
硫肝にまつわる話は、また別の機会で。
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