2月3日のエントリーで、ロラン・バルトの『明るい部屋』について書いた。
そこに記されていた言葉が、半月ほど経った今もなお、心に突き刺さっている。
そんな心持ちのまま、昨年から撮影したいと思っていた古民家を目指し、風のない、日差しのやわらかな冬の午後に、美濃市までバイクを走らせた。
自宅から目的地までは一時間ほど。せめて道中だけは軽やかな気分でいたくて、ZARDのアルバム『forever you』を聴きながら走った。
長良川沿いを北上する。ヘルメットのシールド越しに流れ去る景色を見ていると、河川敷には梅が咲いている。曲も次々と入れ替わっていく。
「あなたを感じていたい」が流れた。何度も聴いた曲だが、改めて歌詞に耳を澄ますと、これは冬の歌なのだと気づく。
ボーカルの坂井泉水さんは、2007年に亡くなっている。
すでにこの世にはいない。そう思った瞬間、軽快だったはずの旋律が、不意にレクイエムのように響きはじめた。
彼女が生きていたころ、その声は、歌以外の何ものでもなかった。
だが、いまは違う。
その声は、彼女が確かに存在したという証拠になっている。
美濃市の旧市街に入り、目的の古民家に到着した瞬間、唖然とした。
そこにあったはずの古民家はすでに取り壊され、柵の向こうに赤茶色の地面がひろがっているだけだった。
そこには、もう何もなかった。
ただ、「それは、かつてあった」という事実だけが残っていた。
声は残り、建物は消える。
だが、残ることと消えることに、優劣はない。
ただ、時間がそうさせるだけだ。
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