2026年6月4日木曜日

開拓者の木

 


 琵琶湖の湖岸には、アカメヤナギが群生している。

​ 水中から生えている木の大半は、このアカメヤナギではないだろうか。成長が早く、生命力が強いこの木は、他の植物に先駆けていち早く根付き、森林形成の第一歩を担う「先駆植物(パイオニア植物)」である。

​ 開拓者であるがゆえに、この木には試練が待ち受けている。嵐、雪、雷、虫害、波。それらの災厄に耐え切れず、倒れてしまう木もある。しかし、倒れてもなお、生を諦めることはない。倒れたまま、別の方向に枝や根を伸ばし、成長し続けていく。

​ 20年ほど前だろうか。湖岸で撮影しているうちに、沖に浮かぶように生えている開拓者たちを、間近で見たいと思い始めた。まさか泳いでいくわけにもいかず、水上を散歩できる乗り物を探すなかで、カヤックに行き着いた。それから10年ほどは、琵琶湖の湖岸を漕いで回った。

  その間、フィルムカメラを持っていた手は、パドルを握る手に変わっていた。

​ 「事物をよくみる」という行為を実現するための道具が、カメラからカヤックに移った時期だった。

​ 水中から生えているように見える木の根元は、水深こそ浅いが、常に水に浸かっているため地中深くに根を伸ばさず地表に沿っている。それゆえ、波で周囲の土を洗われ、強風が吹き付けると、倒れやすいのだろう。

 カヤックを降りて、開拓者の周りを歩いてみると、その見かけ上の島は根だけで形成されているようで、ふわふわとして、まことに踏み応えがない。

​ ただそれだけを確認するために、湖岸を嘗めるように漕ぎまわった。

​ 今は再び、カメラを使い、湖岸から遠くの開拓者たちをみている。やっていることは、元に戻ったわけだ。しかし、開拓者に触れ、認識の枠を強く揺さぶられた僕は、もう以前のままではない。