ゼラチンシルバープリントのプロセスで、ハイライトの濃度や色調を整えるために使う薄黄色の漂白液。赤血塩(フェリシアン化カリウム)を溶かしたその液体は、何度も印画紙を浸すうちに、いつしか緑がかった青色へと変化していく。
使い古して水垢やカビでも湧いたのだろうと、これまでは特に気にも留めていなかった。
しかし昨夜、ふと「この青は何だろう」と疑問が湧き、調べてみて驚いた。
液中で生まれていたのは、あの「プルシアンブルー」だったのだ。
かつて、青はもっとも高貴で貴重な色だった。ウルトラマリンに代表されるように、手に入れるには希少な鉱物を砕くしかなかったからだ。
そんな歴史を塗り替えたのが、18世紀初頭のドイツだった。赤い絵の具を製造していた職人が、調合の失敗から偶然に合成の青を生み出した。それがプルシアンブルーである。
この人工の青の誕生がなければ、北斎の鮮やかな浮世絵も、ゴッホの燃えるような夜空も、今とは違う姿になっていたかもしれない。
僕の暗室に、これもまた偶然に現れた青は、漂白液に鉄イオンが混入したことが原因のようだ。ステンレスのトングから溶け出したのか、あるいは水道水に含まれるわずかな鉄分に反応したのか。
ゼラチンシルバープリントという、手間も時間もかかるクラシカルな技法に日々向き合っていたからこそ、この「青」に出会うことができた。
しかし、正体が分かったところで、僕の写真が変わるわけではない。
それでも、暗室の小さなバットの中から、18世紀のドイツや天才画家たちの足跡へと地続きに知識が繋がっていく。その一瞬の興奮が、たまらなく心地よい。

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