2013年、リンホフ・マスターテヒニカ2000を中古で手に入れた。
大判写真を撮るには木製暗箱のタチハラで不足はなかった。しかし、金属製のテクニカルカメラの使い心地を体験してみたいという思いを抱きつつ、10年近くリンホフを眺めるだけの日々を送っていた。
そして、この年、タチハラ写真機製作所が廃業してしまったことが、リンホフを買う引き金になった。
金属製テクニカルカメラは、リンホフ以外にも、国産のトヨフィールドやホースマンがあったが、眼中になかった。
トヨフィールドよりもリンホフの方がコンパクトで、モデルによっては広角レンズの使い勝手がいい等、、、の理由があるが、それはあくまでも比較した時の違いであって、本当の理由は、リンホフが欲しかったというただそれだけである。
リンホフ・マスターテヒニカには、世代によっていくつかのモデルがあるが、マスターテヒニカ2000(初期型)を選択した。2000は、1994年発売されたモデルであるが、贅沢な作りをした前モデルのマスターテヒニカ45の遺構が引き継がれている。つまり物として、とても魅力があるが、後期型になると、随所にコストダウンを伴う改良が施されていくようになる。
機能面では、それまでのモデルにはない広角レンズの使い勝手の良さもある。現行の3000は、広角レンズはさらに使いやすくなっているが、いかんせん現行であるがゆえに高価であるし、作りが良かった時代のカメラではなく、所有欲が満たされない。20世紀の物作りの精神と現代的な操作感を兼ねそろえたモデルとなるとわずかな期間に製造された2000初期型になる。そんな些細なことに、僕は心惹かれるのだ。
前モデルのマスターテヒニカ45は距離計を側面に装備していたが、2000は電子距離計を上部に搭載できる仕様になっているので、側面には距離計の取り付け跡を塞ぐ板が貼られている。前モデルの部品を流用したのだろうか。もしそうだとしても、つるりとした側面よりも、こうした全モデルの名残であり、無骨な凹凸があるデザインの方が、僕は好ましく思う。
このレバーを操作すると、ボディ内のトラックを移動させられる。広角レンズを使うときには、この機能がとてもありがたい。
僕の2000は、当初、可動トラックが驚くほど硬く、ピントを合わせるのに苦労した。いつもお世話になっている、大阪の鈴木特殊カメラで整備を依頼すると、適度なトルクで可動トラックが動くようになった。ついでに、暗くて見づらかったグラウンドグラスを、フレネルレンズに交換してもらった。そのおかげで、ファインダー越しに見える世界は、ぱっと明るくなった。
それから8年ほど経った頃、スイングバックロックのネジが外れてしまった。修理に出すついでに、かなりくたびれていた蛇腹も交換してもらった。
大判カメラは、究極的にはただの箱に過ぎない。どんな素材で、どんなに簡素な作りであっても、撮れる写真に影響はないだろう。使い勝手だけを考えれば、リンホフよりタチハラの方がずっと良い。リンホフは、ひとつひとつの動作をじっくりと行わなければならないから、どうしても時間がかかる。
それでも、あの美しい金属の塊を手にしていると、僕はただただ楽しくて仕方がないのだ。
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