異例の積雪だった。
伊吹山麓に雪が積もることは珍しくないが、湖岸がこれほど白く染まることは、そう頻繁にあるわけではない。雪景色の撮影には、またとない好機だった。幸いにも今日は仕事が休みで、自由に動ける一日でもあった。
道中、雪道を走るリスクはあったが、「無理なら引き返せばいい」と自分に言い聞かせ、湖北へと車を走らせた。フロントガラスの向こうに広がる白さが、次第に現実味を帯びてくる。
目的地は、多くの写真家を惹きつけてやまない水中木だ。
僕も何度となく足を運んできた場所だが、冬になると水位が下がり、根元は小さな島のように姿を現す。その地表に雪が積もる光景を、いつか撮りたいと、長く心に留めていた。今回の降雪は、まさにそのために用意された時間のように思えた。
昼頃に現地へ到着し、まずは数枚シャッターを切る。曇天とはいえ、日中の光はまだ強く、ND400を装着して長秒露光を試みた。その後は近くの喫茶店に入り、読書をしながら光が落ち着くのを待った。
夕方、完全に太陽が山の向こうに落ち、湖畔に静けさが戻る瞬間を見計らって、最後の一枚に向き合う。
昼間に撮った写真には、樹木に付着した雪の質感が、より克明に刻まれているだろう。だが、光の階調は夕方の方が美しいはずだ。遠方に浮かぶ沖島が、淡く輪郭を取り戻していく様子は、息をのむほどだった。構図もレンズの選択も、昼間とは変えている。
個人的には、日没後の繊細な光を好んでいる。とはいえ、昼の描写が劣るわけではない。昼は150mmと300mmで対象を確かに捉え、夕刻には500mmで、その場に漂う空気ごと凝縮するようにシャッターを切った。
使用した500mmは、山崎光学研究所のテレ・コンゴー500mm F9.5である。同社が業務を終える前年に新品で購入したものだ。この焦点距離を必要とする場面は多くなく、いつしか持ち出す機会も減っていった。一時は、手放してしまおうかと考えたことさえある。
だがこの日、広角から望遠まで万全を期してレンズを携行した判断が、静かに報われた気がした。もしこの一枚が、思い描いていた通りに写っているのなら、このレンズは名実ともに、僕の「愛用の一本」と呼べる存在になるだろう。
結果がどうであったかは、現像してみるまで分からない。
うまく写っていないかもしれないし、暗室での工程で失敗する可能性だってある。
それでも、雪を掻き分け、踏みしめながら、コハクチョウの鳴き声を背に撮影に没頭した時間は、確かな記憶として身体の奥に残った。
それだけで、もう十分だった。

0 件のコメント:
コメントを投稿