2025年11月11日火曜日

露出計、どうしようかな問題


 9月の終わりに、大阪を旅した。南船場の古いカメラ屋で、セコニック・オートリーダーL-188の精度を測ってもらった。結果は、中輝度で0.5EV、高輝度で2EVのずれていることが判明した。
 高輝度で撮ることなど、ほとんどない。それでも、心のどこかで不完全な道具を使用していることが、小さな棘のように刺さったままだ。精度の落ちた露出計は、ネガの階調そのものに影響する。迷った末に、この露出計の引退を決めた。

 思えば、7月に自分で調整したとき、どこか自信が持てなかった。数値よりも、あのときの「わずかな違和感」が正確だったのだろう。製造されてから五十年の時間を経た道具に、もう一度完璧を求めるのは酷というものだ。

 ほかに使える露出計といえば、セコニック・ズームマスターL-508がある。これは信頼しているが、スポットメーターなのでスナップには向かない。
 こうして「露出計どうしようかな問題」が、僕の頭の中で静かに浮上した。

一、スマホアプリの露出計を使う。

二、露出計内蔵のカメラをもう一台持っていく。

三、勘で露出を決める。

 ひとつ目の案。スマホアプリ。
 便利ではあるが、何か違う。光を測るという行為に、スマホのロックを解除してアプリを起動し、、、、という手順は撮影のリズムを乱してしまう。
 
 ふたつ目。内蔵露出計付きのカメラ。
 軽快に撮りたい旅に、使わないカメラを露出計代わりに持つのは、本末転倒だ。
 
 そして、みっつ目。勘。
 案外、これがいちばん正しいのかもしれない。
 そもそもL-188の精度に疑いを抱いたのは、自分の“勘露出”とずれていたからだった。
 ならば、露出計を手放してしまえばいい。
 
 ただ、勘は気まぐれで、信じ過ぎるのも危うい。露出を決めるたびに頭の中で小さな計算を始めてしまうのも、なんだか違う。これも撮影のリズムを壊してしまう。

 そんな理由で、気が進まなかったけれど、結局セコニック・ツインメイトL-208を買った。 二十年前にも一度手にしたことがある。けれどそのときは、すぐに手放してしまった。いま思えば、あの頃は、使いこなす前に飽きてしまったのだと思う。
 
 当時は、スタジオデラックスの無骨なデザインが格好よく見え、一時期使っていた。
 電池いらずの機械式メーター。その針が静かに揺れる様子に、何とも言えぬ憧れがあった。 けれど、入射光メインの測光は僕の撮り方に合わず、やがて手元を離れていった。
 
 他にも候補はいくつかあった。フォクトレンダーのVCメーターや、TTArtisanのライトメーター。どちらもアクセサリーシューに取り付けるタイプだ。
 だが、せっかく露出計を内蔵していないカメラを選んでいるのに、後付けで載せてしまうのは美しくない。
 
 最終的に、心が選んだのはやはりセコニック・ツインメイトL-208だった。理屈ではなく、気持ちの問題。
 TTArtisanのOEM品がAliExpressで安く売られているのを見つけたとき、少し心が揺れた。
 物価高のこの時代、海外通販のページを眺めるのも一種の冒険だ。
 けれど、精度を疑いながら使う道具ほど落ち着かないものはない。僕にはやはり、信頼の積み重ねのあるものが合っている。
 
 ツインメイトL-208は、反射光と入射光、二つのモードで測ることができる。
 試しに18%グレーカードを測ってみた。
 両方のモードで同じ値が出たとき、小さな安堵が胸を満たした。
 道具に再び信頼が宿る瞬間というのは、いつだって静かで、どこか懐かしい。
 
 「これで撮りに行けるな」と思ったその夜、
 ふと――反射光と入射光、両方とも同じ量ずれているから結果が同じであるのならどうしよう、という不安が浮かんだ。念のため、他の露出計とデジタルカメラも持ち出して、測光してみた。
 結果はすべて同じ。これで二度目の安心。

 けれど、もし他の露出計とデジタルカメラも同じ量だけずれていたら……?
 
 そんな疑いを考え始めたところで、ふっと笑ってしまった。
 もう、このあたりでやめておこう。
 撮影ができれば、それでいい。
 少しの誤差も、光の揺らぎのようなものだ。

 それを受け入れて、シャッターを切る。
 秋の午後、カメラを手にした瞬間、露出計の針がゆっくりと動いた。
 その微かな動きが、光の息づかいのように感じられた。
 写真を撮るというのは、光と仲直りすることなのだと思う。

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