2025年12月16日火曜日

選ばなかったカメラを今・・・

 

 先月、ニコンFGを手に入れた。

 40年以上前に発売された、小さなフィルム一眼レフ。その存在に、今あらためて触れてみたくなった。


 発売は1982年(昭和57年)。

 当時の僕は中学一年生。欲しいカメラを夢中で探していた頃で、各メーカーに葉書を書けば、数日後には分厚いカタログが郵便受けに届いた。インターネットも比較サイトもない時代。情報とは、自分で取り寄せ、自分で比較し、自分の時間で眺めて噛みしめるものだった。


 その頃の僕にとって、FGは「入門機」のイメージが強く、候補からは外れていた。

 当時のニコンの一眼レフを、今あらためて振り返ると、こんな感じ。


入門機:EM、FG


中級機:NewFM2、FE、FE2、FA


高級機:F3シリーズ


(これはあくまで当時の僕の感覚ね。)


 キヤノン、ペンタックス、ミノルタ、オリンパス。あれこれ迷った末、最終的に選んだのは、精度の高い電子制御式シャッターを搭載したFE2だった。「電池を入れるなら、機械式にこだわる必要なんてない」と、あの頃は信じて疑わなかった。機械式シャッターのNewFM2は選択肢にすら入らなかった。


 そのFE2は、写真専門学校に進学した友人の当時最先端だったAFカメラのミノルタα7000と交換して、今は僕の手元にはない。


 当時FGを評価できなかった理由は単純だった。スペックだ。


 最高シャッタースピードは1/1000秒。シンクロは1/90秒。

 対してFE2は1/4000秒に、シンクロ1/250秒。未来を感じた。


 しかし、あの時代、日本の工業製品はすでに十分すぎる性能を備えており、「更に高いスペック」を競い始めていた。

 カメラにおいても同じで、実際には使わないような機能が積み上がっていく時代だった。


 FGは、入門機のEMの上位版。デザインは正式に「ジウジアーロ」とは表記されないが、EMやF3と同じ血筋を感じる。


 そして時は流れ、21世紀に入り、さらに四半世紀が経った現在。


 電子制御式シャッターを搭載したカメラを「クラシック」と呼ぶには抵抗があるが、それでも製造から40年以上が経ったカメラだ。

 今、スペックを求めてこの手のカメラを選ぶ理由はない。最高シャッタースピードが1/500でも困らないし、ストロボなんて最後に使ったのはいつだったか思い出せない。


 結局のところ、写真はレンズで決まる。――コンタックスの言葉が、今は当時よりずっとよく理解できる。


 ニコンのMF機としては、2004年に手に入れたNewFM2をずっと使っている。サイトを始めて間もないころに知り合ったイケガワさんと僕が使っていたコンタックスのアリアと交換した。もう21年経ったのかと思うと、時の流れは本当に容赦がない。


 そんな中で、今回手に入れたFGは、僕の手元にある唯一の電子制御式シャッター機となる。フィルム現像の現像時間のテストデータを作るためには、信頼できる精度の電子制御式シャッターが適している。


 露出モードは、絞り優先AE、プログラムAE、そしてマニュアル。

 プログラムは、どうも表現という行為と相性が悪い。だからこのカメラでは、絞り優先AEがほどよく思える。測光は中央部重点平均測光。必要なら露出補正ダイヤルを回せばいい。


 ボディ左側には、+2EV補正のボタンがある。入門者向けなのだろうが、これを適切に使いこなせた初心者は、当時すでに初心者ではなかったはずだ。



 各所にロックが設けられた操作系は、親切であり、少しばかり煩わしいが、当時の設計思想を感じる。

 巻き上げは小刻み対応。巻き心地は「グイー、グッ」とした粘りのある感触。嫌ではない。むしろ心地よい。

 ファインダーは明るく、ピントの山は掴みやすい。AF時代の入門機より確実に良い作りだ。


 ファインダー内表示はLED。F値表示はないが、それで十分だと思えるのは、年齢のせいか、それとも経験のせいか。


 シャッタスピードダイヤルの文字表示は刻印。NewFM2では印刷になっている。

 時代の変化が、ディテールに宿っている。


 シャッターボタンを押すと、ミラーショックが手のひらに伝わる。

 それが上がる瞬間か、戻る瞬間か――できれば後者であってほしい。そうでなければ手ブレが気になる。けれど、この小さなカメラにそれを求めること自体、もはや野暮だろう。


 NewFM2では内部でショックが吸収されているように感じるが、FGの素朴さも悪くない。


 かつて「選ばなかった」カメラを、こうして今になって手に入れている。


 時代が用意し、時間が熟成させ、そして自分自身の認識が変化したとき、初めて手にする機械がある。若い頃は数値と未来を追い、いまは質感と体験を選ぶ。

 FGは、そうして今、僕の手元にあり、選ばなかったことも、選んだことも、いまこうしてフィルムに光を刻んでいる。


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