2025年12月19日金曜日

不可逆な夜

 


 秋の終わりから撮りためたフィルムを現像した。

 気温が低くなってきたので、液温調整に気を使わなくてはならない。けれども、暑い時期に液温を下げて調整するよりも、寒い時期に液温を上げて調整する方がやりやすい。冬の暗室には冬の暗室なりの、ささやかな恩恵がある。

​ 寒い時期は、フィルムベースの柔軟性が低くなり、損傷が発生することが、ごく稀にある。冷え切ったフィルムは、硬く、脆くなる。高価格帯のフィルムではそういうことは起こりにくいと思うが、愛用しているフォマのフィルムには、そのベース素材にいくらかの不満を感じることもある。120サイズに至っては、ベースが薄すぎるため、リールに通す手先にはかなりの緊張が走る。

 そうは言っても、低価格で入手できるフォマのフィルムはありがたい。なかでも「フォマ200」の特性は、僕の好みによく合致している。

​ 昨夜、秋から撮影してきたフィルム八本を一気に現像した。

 リールへの巻き取りがうまくいかなかったようで、フィルム同士が密着し、未現像の部分が残ってしまった。年に一度あるかないかのエラーだが、それは許容範囲だと思っている。完璧を求めることは、余暇の活動には似合わない。

​ 水滴防止剤に浸したフィルムを、乾燥のためにクリップで吊るす。

 滴る水滴越しにネガを透かして見ていると、ほんの数ヶ月前のことなのに、忘れかけていた記憶が鮮明に蘇ってくる。シャッターを切った瞬間の光。その日の空気の温度。風の匂い。

​ プリントしてみたいと思えるネガが、この八本の中にはいくつかあった。しかし、その多くが、実際に印画紙へ焼き付けてみれば落胆に変わることを、僕は経験から知っている。何かが理由となり、満足のいかない結果になる。場合によっては、今日の八本すべてが全滅であっても不思議ではない。

​ それでも、僕はこれを続けていく。

​ 濡れたネガが、暗がりのなかで静かに揺れている。

 その一コマ一コマには、確かに僕が立ち会った時間が刻まれている。たとえうまく撮れていなかったとしても、そこには消すことのできない「何か」がある。

​ フィルムという物質に定着された、もう二度と戻らない瞬間がある。



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