このカメラ、オリンパス・クロームシックスVAというらしい。
中判のマルチフォーマット(6×4.5、6×6)、目測式のスプリングカメラである。
僕が小学生だった頃(1970年代)、うちのタンスの奥に、革ケースに包まれたこのカメラを見つけたのが、僕とこのカメラとの最初の出会いである。
当時、父親が使っていたカメラは、すでにオリンパスペンFTだったため、うちではその頃には、とっくに現役を退いていたようだ。
それから30年ほど経った2000年頃、うちにこのカメラがあったことを思い出した。趣味でカメラのレストアをしている知人に動くようにしてもらい、何本か撮影してみた。
この頃には自宅で暗室作業ができるようになっていたから、そんな気になったのだろう。
元の革ケースは、経年による損傷が著しく、捨ててしまった。
このカメラのズイコーレンズは、経年変化によってくもることが宿命のようで、うちのカメラも例外ではなかった。
そのため、ボンヤリとした像しか結ばない。
「なんだ、こんなボヤけた写真しか撮れないのなら、使う価値がないな」
そう思い、父親に返却すると、今度は靴箱の隅がこのカメラの居場所になった。
でも、ずっと思っていた。
またいつか、使ってみたいと。
それから四半世紀が経過した、現在。
このカメラの使いにくさの一つに、アイレット(ストラップ通し)がないため、ストラップを装着できないという点がある。
ある日、何気なくネットショップでカメラケースを見ていたら、なんとオリンパス・クロームシックス用の互換革ケースが販売されているのを発見した。
今さら、こんな古いカメラの革ケースを新たに制作して商売になるのだろうか?と思いながら、よく見ると、ストラップを吊り下げるためのアイレットも装備されている。
もしかして、時節到来か!!
こんな古いカメラのケースを、いつまでも作り続けてくれるとは限らない。
もしカメラが撮影できる状態に戻るのであれば、このケースを買って使ってみよう。
ボヤけた像は、そのまま楽しめばいいのだから。
しかし、時間が流れ過ぎたせいか、レンズは汚れ、シャッターは粘り、蛇腹には穴が空いていた。
そして、かつてカメラをレストアしてくれた知人は、もうこの世にはいない。
メンテナンスをしてくれそうな近所の修理屋さんをネットで見付けて訪問し相談したが、古過ぎてあまり修理経験がなく、そして、
「同じものが数千円で買えるよ」
と言われ、やんわり断られてしまった。
しかし、そういう問題ではないのだ。
仮に「同じもの」を入手したとしても、それは、うちに70年近く存在しているカメラではない。
今、円安のこともあり、作りの良い日本の1960年代から1980年代くらいのカメラが人気らしい。
近所の修理屋さんは輸出ビジネスで忙しいようで、それよりも古く、操作や修理の難易度が高い、儲けの薄い厄介なカメラを敬遠したのだろう。
どうしたものかな、と思った。
革ケースを入手し、かつカメラのメンテナンスも完了させる。
これが今回の計画である。
そうでなければ使う気になれず、カメラの居場所も、靴箱の隅のままだ。
こうなったら、大阪のいつもの修理屋さんで、直接相談するしかない。
そう思い、まだ暑さの残る9月の終わりに、南船場へ向かった。
これまで、いろんなカメラのメンテナンスでお世話になった**「鈴木特殊カメラ」**さんの扉を、久しぶりに叩いた。
遠方のため、滅多に来られないのだが、店主の方は僕のことを覚えていてくださった。
知人であるお店の常連さんの噂話をしつつ修理の相談をすると、どうやら納得価格でメンテナンスすることができるらしい。
ただ、数か月待ちとのことだった。
僕は安堵するとともに、革ケースをネットショップでオーダーした。
年明け、雪の降る頃には、カメラにフィルムを装填し、ボヤけた写真を撮影できるだろうか。
そして、普段の保管場所を、靴箱の隅から防湿庫へと移そう。
祖父、父親、亡くなった知人、僕。
次にこのカメラを手にするのは、誰だろうか。

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